maruの徒然雑記帳


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恋夢幻想〜6〜






 (彼の夢を見ているのか…)


 あれからどれくらい時が過ぎたのかー自分はまだ山崎真之介と言う男の存在に勝てないでいる。

 大神は切ないような哀しいような思いであやめの涙を見つめた。


 (俺と言う存在ははあなたの中でどれだけの場所を占めているんだろう)


 聞きたくても聞けない問いを噛み締めながら、大神はあやめの肩に手を伸ばした。

 驚かさないようにそっと触れ、優しく揺すって彼女の名を呼ぶ。


 「あやめさん…」


 あやめが小さく身じろぎをする。


「あやめさん、起きて下さい」


 くり返して言うと、今度はゆっくりと目が開いた。

 眩しそうに瞬きをし大神の姿を認めると、あやめは驚いたように眼を見開いた。


 「大神君…?」


 明らかに寝起きの声で大神の名前を呼び、それから少し照れくさそうに彼女は笑った。


 「嫌だわ。いつの間にか眠っていたのね…。大神君いつ…」


 来たの?ーそう続くはずの言葉を最後まで聞かずに大神は、涙にぬれる頬を手のひらで包み、彼女の唇にそっとキスをした。

 ただ触れあうだけの子供のようなくちづけをくり返して、あやめの瞳を覗き込む。

 そこには大神の姿だけが映っていた。


 (こんなふうにあやめさんの心に俺のことだけを映し出せたら…)


 かなわないことと分かっていても思わずにはいられなかった。

 あやめのことが好きで…彼女を好きだと思う程に苦しかった。

 そんな大神の様子から何かを感じたのだろう。

 あやめは不安げに問いかけた。


 「私、寝言で何か…」

 「いえ…」


 彼女を安心させるように大神は微笑んだ。


 「なんでもないんです。すみません、突然こんな…」


 あやめは大神のそんな言葉を信じていないようだった。

 彼女がさらに問いを発しようとした時、扉をノックする音がそれを遮った。

 驚いて、飛び退くように大神はあやめから離れる。

 それを見たあやめはクスリと笑った。いつもの笑顔だった。

 ほっとして大神もテレ笑いを浮かべて頭をかいた。

 再び誰かがドアをたたく。


 「あやめさん、いないのかい?」

 「カンナ?どうしたの?」


 そんなあやめの声を聞くや否や、入室の許可を得る間も惜しみ、待ってましたとばかりに扉が開く。


 「なんだ、ちゃんといるんじゃねーか」


 悪ぶれずにそう言って、カンナはにこっと笑った。憎めない笑顔だ。

 大神もつい釣られて笑ってしまう。


 「どうしたんだい、カンナ。あやめさんになにか用かい?」

 「何だ、隊長も居たのか。こりゃちょうどいいや」

 「ちょうどいいって、なにが?」

 「いやね、これから皆で初もうでに行こうってことになってさ。隊長とあやめさんも行かないかって誘いに来たんだ」

 「へぇー、初もうでかぁ」


 言いながら、あやめはどうするのだろうとその横顔を盗み見る。


 「初もうでねぇ」


 楽しそうにあやめもくり返す。


 「いい考えだろう?なっ、行こうぜ、二人とも」

 「そうだな。じゃあ…」


 カンナの誘いに頷いた大神の横であやめがやんわりと首を横にふった。


 「残念だけど私は留守番してるわ」

 「えっ」


 驚いて自分の方を見た大神に苦笑まじりにあやめは言う。


 「だって誰かが残って連絡をとれるようにしておかないと、何かあった時に困るでしょう?それにやっておきたいレポートがあるし…」

 「じゃあ、自分も…」


 手伝います、と続けようとしたが、あやめの言葉がそれを遮った。


 「大神君は行ってらっしゃい。せっかくのお誘いでしょう?」


 有無を言わせないその口調に大神は頷くしかなかった。


 「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 そんなあやめの声に見送られて大神はカンナと共にその部屋を後にした。

 花組の皆と初もうでに行くために。

 そこで新たな敵と出会うことも知らないまま…






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