maruの徒然雑記帳


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恋夢幻想〜15〜






 「買い出しのチェック?いいわよ」


 そう答えてマリアは椿の手からメモ帳を受け取った。早速開いて素早く目を通す。

 あまりゆっくりはしていられなかった。

 大神からの招集に他のみんなはもうサロンに集まっているはずである。

 マリア自身ちょうどそこに向かう途中だったのだ。

 慌ただしくリストを追っていたマリアの目が不意に止まった。


 「お酒?」


 マリアのそのつぶやきを聞いた椿が、あぁ、と頷く。


 「それは大神さんが…」

 「隊長が!?」


 大神の名に敏感に反応したマリアが鋭い眼差しを椿に向けた。


 「どういうことなの!?」

 「えっと、あのぉ、大神さんが支配人に頼まれたからって」


 マリアの気迫に飲まれてしどろもどろに椿が答える。


 「支配人に?隊長がそう言ったの?」

 「はい」

 「そう…」


 つぶやいて、マリアは疑わしげ眼差しを再び手の中のメモの上に落とした。

 その頭の中にはここ数日の大神の憔悴した様子が映し出されていた。

 青白い顔をして、食欲もないようだった。

 それでも大神は笑うのだ。

 みんなに心配をかけまいと、明らかに無理をしているとわかる笑顔で。


 なんて不器用な人なんだろうと思う。

 いっそのこと、ほかの誰にも気づかれない完璧な演技をしてくれればこっちも心配せずにすむのにー。

 以前の自分ならそう思い彼のことを腹立たしく感じていたことだろう。


 だが、今は違う。

 そんな不器用な彼だからこそ愛しいと感じる。

 不器用だけれど繊細で優しく、そしてまっすぐな気性を持つ彼を、愛するに足る隊長だとそう思うことができる。

 その思いは花組のみんなも同じだ。みんながそれぞれの思いで大神一郎という人を愛している。

 心からー


 「マリアさん?」


 無言でリストを眺めるマリアにさすがに不安になったのか、椿がそろそろと声をかけてくる。

 マリアは顔を上げ椿の顔を見ると、表情を和らげ軽く微笑んで見せた。どうやら自分は彼女をずいぶん不安がらせてしまったらしい。

 もう一度だけリストに目を落とし、小さく頷いた.それから椿にそのメモを返しながら、


 「特に不足しているものはないと思うわ。それで相談なんだけどー」


 買ってきたお酒を自分から大神に渡してもかまわないだろうかーそうたずねた。

 椿は一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに「もちろんです」と快諾してくれた。

 マリアは破顔し、椿に礼を言った。

 椿は目元をかすかに赤く染め、買い物に行きますとマリアに軽く頭を下げる。その姿は慌ただしく玄関の方へ消えていった。


 そんな彼女を見送ってマリアは一つ息をつく。

 頭の中を大神のことだけが馬鹿みたいにぐるぐると回っていた。






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