maruの徒然雑記帳


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 リリカルなのはA'sの少し後、はやてとシグナムのSSです。ほのぼのしてます。

 家族仲良しで良い感じじゃないでしょうか(笑)

 シグナムもはやても、まだお互いに対する恋心を理解していない……そんな頃の話。

 もし気になるようでしたら読んでやって下さい。






名前を呼んだ日






 出会った時、彼女はまだ一人では飛べない小鳥だった。見えない鎖にその身を縛られ、がんじがらめにされて。

 だが、不自由なその身を嘆くことなく、いつも明るく前向きで、その限りない優しさは我らを驚嘆させ、心酔させた。

 彼女の為なら何でも出来ると思った。彼女を守り、彼女の為に生きていきたいと。

 その気持ちは、鎖から解き放たれた彼女が伸び伸びと空を舞うようになってからも変わらず胸の真ん中にある。

 自分に出来る事ならば何でもしてあげたい。

 自分の行いが彼女の幸せの手助けになる限り。


 だが。


 そうは思っていても、人には得手不得手というものがあり、出来る事と出来ない事が、あると思うのだ。

 たぶん……きっと……


 「あんなぁ。皆にお願いしたい事があるんやけど」

 そんな改まったはやての言葉に、リビングでそれぞれくつろいでいた面々が顔を向ける。

 「なぁに?お願いって」

 シャマルがおっとりと首をかしげながら問いかける。

 「今度な、皆が家に遊びに来たいっていうとるんよ。しかも泊まり。パジャマパーティーしよーって」

 「ぱじゃまぱーてぃー?よく分からないけど、何だか楽しそうな響きね。お願いってその事?ぱーてぃーのお手伝いをすればいいのかしら?来るのは、すずかちゃん達よね?」

 「そう。すずかちゃんと、アリサちゃんと、なのはちゃんと、フェイトちゃん。パーティーの事ももちろん手伝ってほしいんやけど、その前に一つ解決しとかなあかん事あると思うんや」

 「解決したい事?何か困った事でも?主はやて」

 「それやーーー!!!」

 大きな声で言われ、何故か指を指される。

 すっかり元気になられてーと感慨深く思いながらも、何故自分が指差されなければいけないのだろうかと首を傾げる。

 今の発言に問題でもあったかとはんすうしてみるものの、特に問題があったとも思えない。

 シグナムは無表情に困りながら、小さな主を見返した。

 「それやーって、何かシグナムに問題でも?それよりはやてちゃん、人を指差しちゃダメよ」

 「ありゃ、思わず。ごめんなぁ、シグナム。でも、まさにシャマルの言うとおり、シグナムが問題なんよ」

 「……私が、問題?」

 ガーン。

 そんな擬音が頭の中を響き渡っていてもおかしくない位のショックだった。

 まさか、主の憂慮の原因が自分にあったとは想像もしていなかった。

 一体、何がいけなかったのか。

 主の足がまだ回復途上にあるからと、心配して世話を焼きすぎたのがいけなかったか!?

 そう言えば、先日シャマルからも注意を受けたのだ。主を構いすぎだと。

 まるで、はやてちゃんのストーカーみたいよ、そう言われた。

 ストーカーと言うのがどういう意味なのか良くわからないが、あまり良い意味の言葉ではないだろう。

 それからは、少し自粛はしていたのだ。

 風呂の手伝いも、以前は一緒に入ってこまごまと世話を焼いたのだが、今は風呂の外で主の様子を窺うのみに止めている。

 もちろん主から言葉がかかれば話は別なのだが。

 買い物に行くときも、足に負担があるだろうと抱き上げて共に行っていたのだが、今は一歩後ろで見守る様に心がけている。

 主に疲れた様子が見えたら即座に抱き上げられるようにスタンバイしながら。

 その他にも色々あるが、脱・過保護を目指して努力はしている。努力はしているのだ……。

 表情はあまり変わらないものの、悩んでいる事がバレバレのシグナムの頭にそっと手を伸ばし、

 「なんや、シグナムの考えてる事は大体分かるけど、そっちはまぁいいねん。

 お風呂かていつも戸の外で待ってるみたいやけど、服脱いでいつでも入ってこれるように準備してるくらいやったら最初から一緒でかまわんし、一緒に買い物に行ってくれるのは嬉しいし」

 慰めるように頭を撫でながら微笑んだ。

 「今回の問題点は、そんな事とちゃうねん。もっと根本的な問題なんや」

 「根本、的……?」

 「そうや。なぁ、みんな。ちょっとあたしの事を呼んでみて」

 そう言ってはやてはみんなを見回した。それぞれ、いきなりな要請に戸惑いはあったものの、主の望みに応えるべく例外なく口を開く。

 「はやてちゃん」

 「はやて」

 「主はやて」

 「がうがう(主)」

 「はーい、ありがと。ザフィーラは例外として、見事に問題が浮き彫りになったわ」

 「あぁ、なるほど」

 「だな」

 「がう(うむ)」

 なぜかみんな、その問題とやらが分かったようだ。

 シャマルも、ヴィータも、ザフィーラでさえ犬の姿のまま、訳知り顔にうんうんと頷いている。

 自分だけが理解していない、その事実に焦りながら、シグナムは困ったようにはやての顔を見た。

 「今回の問題点。それはずばり、呼び方や」

 「呼び方??」

 「そうや。シグナムはおかしいて思わんかった?」

 「いや、別段……」

 「そうやろうなぁ……。じゃあ、他にわかる人」

 その問いかけに、三本の手が上がる。

 「みんな、優秀やな。うーん、じゃあ、説明上手なシャマルにお願いしようか」

 「はーい。任されました」

 にっこり笑ってシャマルが立ち上がる。こほん、と咳払い。

 「回りくどく言っても分かりにくいだろうから、単刀直入に言うわね。シグナム、はやてちゃんの名前の前に主ってつけるの、そろそろやめてもいいんじゃない?」

 「なっ」  衝撃だった。主は主なのだから、名前の前だろうと後だろうと、主とつけるのは当然だろうと反論しようとしたが、その前に更に言葉がかぶさってきた。

 「まぁ、私達の前でだけならいいけど、今度ははやてちゃんのお友達が来るのよ?

 なのはちゃんやフェイトちゃんは事情を分かってくれているからいいけれど、後の二人は私達をはやてちゃんの家族として見る訳でしょ?」

 「そう、だろうな」

 「だったらおかしいと思わない?主はやてって呼び方」

 「????」

 首を傾げると、4方向から盛大なため息が。

 「明らかにおかしいだろーが!家族に向かって、主はやてって呼び方は。

 家族に主って呼ばせてるなんて、へんな奴って思われたらどうすんだよ。はやてが変態って思われたらシグナムのせいだぞ」

 「主が、私のせいで変態……」

 ガーン、ガーン、ガーン、ガーン……

 あまりの衝撃に、擬音が頭の中をリフレインしている。

 そのせいで、

 「変態は言いすぎやで、ヴィータ」

 とヴィータをたしなめる主の声も耳に入ってこない。

 だが、気力を振り絞って主に向き直る。迷惑をかけてしまっているならせめて謝罪せねば。

 青白くなった顔で、シグナムは深々と頭を下げた。

 「主、申し訳ありません。私のせいで変態に」

 「やから、変態ちゃうて」

 苦笑いを浮かべたその表情を見て、少しだけホッとする。良かった。怒っていないようだ、と。

 「でもなぁ、ヴィータの言うとおり、家族に向かって主って呼び方はおかしいと思うねん。他の呼び方にしてもらえんかなぁ?」

 怒ってはいないが、困ってはいるらしい。

 自分が大切な主を困らせているという事実に胸が痛くなる。

 何とか期待に応えねばと口を開く。

 「わ、わかりました。では、はやて様、と」

 「なんで家族に様づけやねん」

 ぱしーんと後頭部に衝撃。すばやい、いいつっこみだ。妙なところに感心しながら、後頭部を片手で撫でる。

 困った。なけなしの案が却下されてしまった。

 他になにかいい案は……泳いだ目線がシャマルの顔で止まる。

 「……はやてちゃん」

 「……うわっ、きしょっ」

 グサっときた。

 きしょって……きしょって……気色悪いってことですよね、主……。

 傷ついて拳をプルプル震えさせるシグナムを見てしまったと思ったのか、

 「あー、ごめんなぁ。思わず本音がでてしもーて。シャマルにそう呼ばれるのはいいんやけど、シグナムにそう呼ばれるとなんか、なぁ?」

 そういいながら、頭を抱いてよしよしと撫でてくれた。

 それだけでなんとなく気分も浮上し、頑張って他の案を考えてみようと、再び、みんなの顔を見回す。

 ザフィーラの顔を見る。ぽん、と手を叩き、

 「がう」

 そう言って真面目な顔で主を見た。

 半眼になった主が怖い。別の案を考えよう。だが、他にどんな呼び方があるだろうか。

 「……はやてさん」

 「う〜〜〜、ちょっとましになってきたけど、却下。家族にさんづけって、なんか教育ママみたいでいやらしいやん?」

 何がいやらしいというのか。かなりすたんだーどな呼び方だと思ったのに。

 だが、却下されてしまったのだから仕方が無い。何とか別の呼び名を。

 「はやぽん」

 「却下」

 「はやや」

 「却下」

 「まいはにー」

 「……(赤)却下」

 数打てば当たる作戦を決行してみるものの、結果は芳しくない。だが、あきらめる訳にはいかない。主の期待に応えねばっっ!!!

 20分後。

 「はやっち」

 「……却下」

 「っだあ〜〜〜〜!!!まどろっこしい!!」

 とうとうヴィータが切れた。

 「呼び捨てでいいじゃねぇか、呼び捨てで!ほら、呼んでみろ。はやてって。簡単だろ」

 呼び捨て。それは思いつかなかった。

 シグナムは目から鱗が落ちた思いではやてを見た。そして口を開く。

 「はやて」

 するりとすべりでたその呼び方は、何だか妙にしっくりと口に馴染んだ。

 これも、ダメだろうか?

 窺うように主を見る。

 彼女は笑っていた。嬉しそうに。その笑顔があまりにまぶしくて、もっと見ていたいと心から思った。

 だから。

 「はやて」

 もう一度、彼女の名を呼ぶ。

 彼女は更に笑みを深めて、

 「はい。良くできました」

 と、応えてくれた。嬉しそうに、少しだけ恥ずかしそうに。


   それは初めて彼女の名前だけを呼んだ日。

 何が変わったわけでもないのに、今までよりもっとずっと、主が近くなったように感じた。

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