maruの徒然雑記帳


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花の名前〜4〜






 今度こそ、死ぬかも知れないーどこまでも真剣に大神は思った。

 何しろ今度の相手は紅蘭なのだ。紅蘭と言えば爆発。包丁どころの騒ぎではない。


 ー長いようで短い人生だった


 魂が抜けたような表情で大神は思う。

 そうして再び視線を遠くにさまよわせる大神を、現実へと引き戻したのは紅蘭の声。


 「甘いっ。甘いで、大神はん。もう、甘々や」

 「甘いって…何が?」


 思わず問い返してしまう大神。

 何を分かり切ったことをとあきれ顔の紅蘭は、大神の予想の斜め上を行く答えを返してきたのだった。


 「何て、そら、つっこみに決まってるやろ?」


 つっこみ?ー大神の思考が一瞬停止する。

 固まってしまった大神を尻目に紅蘭は拳を振り上げ力説する。


 「ぼけと言ったらつっこみ。これはもう常識やで、大神はん!!」


 ーそう、なのかな?


 紅蘭の言葉のあまりの力強さに、首を傾げつつも納得してしまう大神。


 「うちが可愛い発明品にうっかり君なんて名前つけるはずないやろ?あかんなぁ。うちの性格知ってればそのくらい分かりそうなもんや」


 そう言われてみればそんな気がしないでもない。

 ただでさえ実験相手には事欠いているのだ。

 それなのにせっかくのカモーもとい貴重な実験台に恐怖心を与えるような名前では、誰も彼女につきあいはしないであろう。

 以外にと言うか、計算高い一面を備える紅蘭のことだ。彼女がそんな無用の危険を冒すはずがない。

 いかにも成功しそうな名前で安心させておいて、時間差のフェイントで大爆発を起こすーそれがいつもの、大神も知り尽くした紅蘭のパターンだったはずである。


 そこまで考えて大神はかすかな苦笑をその口元に浮かべた。

 よくよく考えてみればそれは、普段であれば笑い飛ばせる、そんなレベルの冗談だった。

 よほど余裕がなかったのか、動揺していたのかーあるいは先日のさくらの一件が予想以上に根深く大神の心に残っていたのかも知れない。

 それもまあ、仕方ないだろう。

 先日のさくらの一件は、大神のそれまでの女性観を根底から覆すような、それだけのインパクトのある出来事だった。


 「まったく、うちがせっかく初心者の大神はんのためにって分かりやすいぼけかましたってのに、つっこみの一つもできへんなんて、これはもう犯罪的やで?」


 大きなため息をつく紅蘭に、大神は訳もなく自分が何か悪いことをしてしまったような思いに駆られる。

 ごめん、と頭を下げた大神に、しゃあないなぁーと紅蘭が笑った。

 優しい目で大神を見つめ、そんなところも大神はんらしいわーそう言う紅蘭に、大神の顔にもまた笑みが浮かぶ。  そんな大神の笑い顔を見て紅蘭はほんの少しだけその頬を赤らめた。

 が、気を取り直すように小さく一つ咳払いをした後、


 「せやけどなぁ、大神はん。一つだけ忠告しておくから、よーく覚えとき」

 「?」

 「鋭く的確で、なおかつ笑いのとれるつっこみーこれができへんようじゃ、立派な隊長には到底なれへんで?」


 真面目な口調でそう言いきった。

 それが真実なのか、はたまた紅蘭のたちの悪い冗談なのかー判断できずに大神は考え込んでしまう。

 普通の軍人であれば、そんな馬鹿な話があるかと、一蹴してしまうであろうことを、もしかしたらそんな基準もあるのかもと思うところが大神という青年のお人好しなところだ。

 そう言う部分を周囲の人からこよなく愛されている大神青年は、一つ頷き心を決める。


 嘘と言い切れないのであれば、信じるほかない、と。

 そして決心する。

 明日からは日頃の鍛錬に加え、つっこみの練習もそのメニューに加えること。

 もちろん恥ずかしいから、人に見られないようにこっそりと、だが。


 そっと拳を握り、大神は思う。

 これは花組のみんなにふさわしい隊長になるための試練なのだ、と。

 そんな大神は誰の目から見ても、真面目で素直な、なおかつ上に馬鹿が付くほどのお人好しだった…






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