maruの徒然雑記帳


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花の名前〜19〜






 しばらくしてー背中越しに聞こえてきたのは彼女の静かな寝息。

 大神の口元に小さな苦笑いが浮かぶ。

 よほど疲れて眠かったのか、それとも大神などは眼中に入っていないだけなのかーここまではっきりしているといっそ清々しいくらいだ。


 だが、それと同時にこうも思う。

 彼女がこうして側に置いてくれることは、それ自体が心を許してくれている証なのかも知れないと。

 男としては見てもらえてないのかも知れないが、そう考えるとなんだか少し嬉しくもあった。


 静かに寝返りを打ち、大神は天井を見つめる。

 夜の沈黙がおりたこの部屋に響くのは大神のかすかな息づかいと、マリアの寝息だけ。


 大神は口元をかすかに微笑ませ、そっとマリアの方へ首を傾けた。

 暗闇に、ほのかに白く浮かぶ彼女の横顔。目を閉じ、鋭い眼差しをその奥に隠したそのの顔は、年相応に幼くあどけない。

 優しく、優しく彼女を見つめながら、


 (好きだよ。君が好きだ、マリア)


 胸に満ちる苦しいまでのその思いを心の中で言葉に変える。

 声に出して伝えるにはまだ勇気が足りないけれど、いつかーいつの日にか真っ直ぐに彼女の目を見て伝えられる日が来ればいいと思う。

 伝わる温もりが愛しくて、切なくてー大神は息苦しいような幸福感の中、ただ壁を見つめた。

 彼の長い夜は、まだまだこれからだった。







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