maruの徒然雑記帳


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花の名前〜11〜






 へんな男だーとはマリアの大神に対する正直な感想だった。

 食事の後、眠りはじめた大神を置いて、マリアはいつものごとく酒場へと向かっている。

 日々の生活がかかっているのだ。そう簡単に休むわけにも行かない。

 その酒場へ続く道を一人歩きながら、マリアはずっと彼のことばかりを考えていた。


 日本という島国出身の、突然現れた不思議な男。

 彼がいったい何者なのかということは結局まだ何も聞き出せていない。

 軽い食事を終えた後、彼が再びまどろみの中に戻ってしまったせいだ。


 どうも調子が狂うーマリアは軽い吐息を漏らして思う。

 いつもはこうじゃないのに、と。

 頭の中に浮かぶのは、あの脳天気としか形容使用のない笑顔を浮かべる青年の顔だ。

 何が楽しいのか分からないが、彼はマリアの顔を見るたびにとろけるような笑顔をその面に浮かべる。

 真面目な顔をしていればそれなりに精悍な顔をしているというのに、笑うととたんに情けない顔になるのだ。

 マリアは情けない男は好きじゃない。

 それなのになぜか彼の笑った顔を、決して不快ではないと感じる自分がいる。

 それに彼を見るとなぜかある一人の男が思い出されて仕方がないのだ。

 まるで似ていない、共通点もない二人だというのに。


 黒糸の髪に金糸の髪。

 黒曜石の瞳と青玉の瞳。

 もちろん顔立ちだって違う。それなのにどこか似ているー。

 いったいどこが似ているというのか?あの人と、あの男とー少し考えて、その答えに行き着く。


 それは瞳だ。

 一郎という日本の青年は、なぜかとても優しい目をしてマリアを見る。

 それはそれは優しく柔らかな眼差しでー。

 それはかつてあの人がマリアにたいして向けた眼差しとよく似たものだった。  それから、食べたいものは何かと聞いたとき、彼の口から飛び出したあの言葉ー。

 ボルシチは、あの人が好きな料理の一つだった。だからその名前が彼の口から出たときは、声も出ないくらい驚いた。

 そしてそれと同時に思い出した。

 かつてともにいた頃の、あの人ののまぶしいくらいの笑顔をー






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