maruの徒然雑記帳


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恋夢幻想〜9〜






 最近私は夢を見る。

 懐かしい夢。あの人の…夢。

 あの人は笑っている。あのころと全く変わらぬ笑顔で…。

 彼の瞳が私を見つめる。その指が私に触れる。

 彼の優しい眼差しを、その繊細な指先をー私は何よりも愛した。


 ー私は夢を見た。


 何よりも懐かしい…そして何よりも恐ろしい夢。

 目の前に立つあの人。

 優しさのかけらも無い、冷たい表情で私を見る、変わり果てた彼。


 「殺女」


 私の名を呼ぶ変わらぬ声。ただそこに込められた感情だけが違う。


 「ー殺女」


 凍り付いた眼差しが私を縛る。

 身動きすらままならず、眼をそらすことすらできずに私は彼を見つめる。

 満足そうに眼を細め、彼は当然のように私に命じる。


 そんなことできないーそう思うのに、その思いとは裏腹に彼の言葉に頷く自分がいる。

 抱き寄せられ、その冷たいくちづけを受けながら、眼が暗む程の幸せを感じる自分がいる。


 どうにもならなかった。


 そんな時、心に浮かぶのはただ一つの眼差し。

 その切ないくらいに透明で真直ぐな眼差しを、忘れることは決して無いだろう。


 (大神君…)


 涙が溢れた。

 あの人と似たところなんてほとんどない彼が、私にとって特別な存在になったのはいつの頃からだったろう。

 気がついたら彼の姿を目で追う自分がいた。


 「誰を想おうが無駄な事よ。お前は私のものだ。未来永劫、変わることなくな」


 そして、彼は笑った。形のいい唇をゆがめるようにして。


 「殺女」


 ゾッとする程冷たい声で彼が私の名を呼ぶ。


 「お前は私から逃げられまいよ。決してな」


 悪魔のようなその笑い顔を見ながら私はいつも目を覚ます。

    夜毎訪れる悪夢。

 私に逃れるすべは無い…

 





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