maruの徒然雑記帳
恋夢幻想〜37〜
気がつくと彼は光の中にいた。
押しつぶされてしまいそうなほどの圧倒的な光の中に漂う闇ーそれが彼だった。
今の彼には自分が誰であるのか、なぜここにいるのかすらも分からな
彼にはもはやなんの力もなく、ただ静かに消えていこうとしていた。
不意に誰かに呼ばれたような気がした。
顔を巡らせた先にあったのはさらなる輝き。
懐かしいような、愛しいような、切ないようなー心に浮かび上がったそんな思いにとまどってしまう。
その輝きはきっと自分にとってとても大切なものだったんだろうと、そう思った。
だがそれと同時に彼は知っていた。その光と自分とが、決して相容れない存在であるということを。
「サタン」
呼びかけられてようやく自分の名を思い出す。
そして自分という存在の意味も。
「帰りましょう。私たちのあるべき場所へ」
「あるべき場所?」
彼は笑った。冷たくーすこしだけ淋しそうに。
「私とお前は背中合わせの存在だ。近いようでいて果てしなく遠い。向かう場所も違う。もちろんお互いがあるべき所も、天と地ほども違うところにある。前に進もうとすればするだけお前と私は遠くなる。私たちは、そう言う関係だ」
「いいえ、違うわ。あなたはそう思いこんでいるだけ。望めばあなたも光に帰ることができるはず」
「闇は闇だ。…光にはなれぬ」
彼はもう一度だけ、その輝きを見た。
たとえ二度と再び見ることがかなわなくても忘れてしまうことがないようにしっかりと目に焼き付けた。
そして最後に微笑んだ。
「さらばだ…」
また会おうとは言わない。
もう二度と会うこと無いだろうから。
闇は徐々にその姿を薄くしていく。そして唐突に、まるで光の飲み込まれてしまったかのようにその姿を消した。
後にはただ光だけが残された。
「私はあなたと共に歩むもの。あなたが生まれるとき私もまた生まれる。また会いましょう。長い長いときの中で。私はいつでもあなたと共にあるわ」
語りかけるような、独り言のようなーたいして大きな声ではないのに、その声は不思議とよく響いた。
光あるところに闇はあり、闇のないところに光は存在しない。
光の化身と闇の化身は再びまたで会うため、しばしの別れを告げあったのであった。
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