maruの徒然雑記帳


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恋夢幻想〜34〜






 目の前で霊子砲が、そしてミカサが、ともに大爆発をおこして吹き飛んだ。

 そのすさまじいまでの衝撃と爆風を瀕死の体に受け、それを堪えきれるわけもなくー血にまみれた体は宙を飛び、激しく床にたたきつけられた。

 その身を襲った激痛に美しい顔をゆがめながらもかろうじて意識を保った叉丹は、やっとの思いで首を巡らせ、その光景を目の当たりにした。


 そこには何も残っていなかった。

 あの巨大な砲身を支えていた土台さえも残ってはいない。

 全て、跡形もなく吹き飛んでしまった。

 ただ、床に散らばる大小の残骸のみがそのよすがを忍ばせるのみである。


 それを見た叉丹は長い長い時間をかけて形にした計画が全て水の泡となったことを知った。

 それでも叉丹本人が生きてさえいれば霊子砲など無くても帝都を地獄のそこへ落とすのはたやすいことであろうが、もうそれすらもかなわない。

 何しろその当の本人が今にも死にゆこうとしているのだから。


 訳もなくおかしくて、叉丹は笑い声をあげようとした。

 だが喉をついてでたのはすきま風のような気の抜けた音だけ。

 その瞬間、叉丹は自らの死がすぐそこまで来ていることに気がついた。

 唇の端をゆがめ、かすかに微笑う。


 (そうか…私はもう死ぬのか…)


 不思議なくらい冷静にそのことを思う。

 その瞳はただ静かに自分の死を見つめていた。

 そしてごく自然に、彼は一人の人を思った。


 彼女の顔を自分の中に難なく描き出せることに軽い驚きを感じながら、叉丹は彼女の幻影にそっと語りかける。

 私はお前の元へ行くのだろうかーと。答えがないことは分かり切っている。

 だが彼女の幻が微笑みを浮かべてくれた気がして、叉丹は自らの心が軽くなったのを感じた。


 全身をさいなんでいた痛みももう感じない。

 死はもう恐ろしいものではなくなっていた。

 我ながら現金なものだなと微苦笑を漏らし、ふと思いついたようにそのことを考えた。


 自分はいったい何のために存在したのだろうかー。


 人の身に生まれ、魔のものへと身を落とし、目的を達することもできないままにこうして死んでいく。

 自分はこの世界にとってなんの意味があったのだろうかーと。


 そのときだった。


 叉丹はふと自分の中に何か黒い影があることに気がついた。

 その黒い邪悪な意志はどんどんと大きくなり、叉丹の意識すら飲み込まんとふくれあがる。

 その意志に触れたとき叉丹は自分が生まれた理由の全てを理解していた。そしてこれから起こることの全てを知った。


 最後の力を振り絞り、叉丹は大神の姿を探す。

 彼は叉丹とさほど離れていない場所にいて、今にも起きあがろうとしているところだった。

 叉丹の視線に気がついたのだろう。振り向いた黒い瞳が真っ直ぐに叉丹をとらえた。

 強い瞳だ。何者も恐れないー。だがいつまでその瞳を保っていられるのか。これから起こる深い絶望の中で。


 (それを見られないことだけが残念ではあるが、な…)


 小さな吐息を漏らし、叉丹は永遠にその瞳を閉ざした。

 葵叉丹という存在の死ーそれとほとんど間をおかずに新たなる転生が始まろうとしていた。







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