maruの徒然雑記帳


welcome





恋夢幻想〜11〜






 目を覚ますとすぐ隣から聞こえてくる安らかな寝息。

 わずかに顔を傾けるとそこには穏やかな顔で眠る人がいる。

 触れあう肌から伝わる温もりが温かで、嬉しくて、切なくてーなぜか涙が溢れた。

 この人が好きだーと思う。なぜだかとても。


 あの人とはまるで違う。

 見た目も、性格も、似たところは何もないはずなのに、いつの間にか好きになっていた。

 今では彼の真直ぐな性格も、それゆえの不器用さも全てが愛おしい。


 大神一郎ー心の中でその名を呼ぶ。それだけで胸が熱くなる。

 どれだけ自分が彼の事を好きかをその度に思い知らされる。

 彼は知らない。私がこんなふうに思っている事。

 だが知らなくていいのだ、こんな事は。むしろ知られたくない。こんな気持ちを彼に。


 好きよ、大神君。誰よりも…そう、あの人より…

 声に出さずに呟き、彼のむき出しの肩にそっとくちづけた。

 その時だった。突然、頭の奥が軋むような痛みを訴えた。


 「…っっ!?」


 声にならない悲鳴を漏らし、頭を抱える。

 心の奥から何かが浮かび上がってくる。

 押さえきれない何か…それはきっと私と言う存在を跡形もなく押し流してしまうだろう。


 (殺女)


 誰かが私を呼んでいる。

 懐かしい声。

 かつて、私が誰よりも愛した人の声…

 山崎真之介ー。

 あなたなの?あなたが私を呼んでいるの?あなたが…


 「…さん…あやめさん!!」


 名前を呼ばれてはっと我に帰る。

 目の前に大神君の顔。


 「あ…大神君…?」


 半ば呆然と彼の名を呼ぶ。

 彼はそんな私をきつく抱き締めた。息が止まるくらい強くー。

 私はその背に腕をまわし、そして問いかけるようにそっと彼の名を呼んだ。


 ー何にそんなにおびえているの?


 そう彼は何かにおびえている。

 でも何に?

 強大な敵を前にしても怯む事なく立ち向かう事のできる彼が、いったい何におびえると言うのだろう。


 「あなたが今にも消えて、俺の前からいなくなってしまいそうで…」


 それが怖かったのだと彼は言った。

 両手を私の頬に添え、私と言う存在を確かめるように、彼は何度も何度もくちづけをくり返す。

 そして言った。


 「ずっと俺のそばにいて下さい。ーあなたが好きです。他のどんな存在よりも…」


 ひどく思いつめたような、真剣な眼差しで。

 そして私は約束すると答えた。

 ずっとそばにいると、そう答えた。

 その約束が決して守られる事がない事も知らないで…


 幸せそうに彼が笑う。その笑顔が好きだった。

 ふいに泣きたくなって、彼の広い胸に顔を埋める。

 そのまま彼の体をぎゅっと抱き、「抱いて」とささやく。

 私を抱く手に力を込め、彼はそれを答えに代えた。


 からみ合う眼差しー触れあう肌と肌。


 疲れ果て、夢も見ずに眠った。彼の腕の中で。

 朝日の中で目を覚まして顔を見合わせた時、照れくさそうに笑った彼の顔を私は決して忘れない。


 幸せだった、本当に。

 彼と出会えて良かったと、心の底からそう思った。

 そう、思う事ができた。

 ー私は幸せだった。


   そして幸福な夢は終わりを告げーとびきりの悪夢が始まろうとしていた。






戻る  次を読む

web拍手 by FC2





戻る

トップへ戻る

Copyright©2015 maru-turedure All Rights Reserved.

 
inserted by FC2 system