maruの徒然雑記帳


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流れ星6






 ヴーヴーヴー・ヴーヴーヴー・ヴーヴーヴー

 鈍い音で目が覚める。

 掛け布団から手だけを出して、その音源の出所を探る。

 中々ヒットしない、指先がそれに触れたので掴みそのまま布団の中へ引きずり込む…

 ”ピッ”

 「…のは…なのは?」

 目覚ましかと思って停止させたはずの機器から声がする

 ………

 …一気に意識が覚醒する。

 「!?ふぇぇ〜!!フェイトちゃん??」

 「うん。ごめん。起こしちゃったかな?」

 「う、ううん。大丈夫。…えへへ。おはよう」

 「おはよう。なのは。珍しいね。いつも早いのに…」

 「うん。昨日少し夜更かししちゃったから…」

 「夜更かし…?それも珍しいね」

 機器からクスクスと笑い声が漏れる。

 その優しい声にもドキドキしてしまう。

 「うん…ちょっとね」

 電話の主の事考えていましたなんて…言えないよ。

 「なのは、今日暇かな?アルフもクロノもエイミーも用事で居なくて、今日の夕飯はリンディーさんと2人なんだけど、それも寂しいからなのはも一緒にって…どうかな?」

 「うん。私は大丈夫だけどお邪魔じゃない?」

 「リンディーさんが是非って、言ってるよ。よかったら泊まっていきなよ。リンディーさんから桃子さんへ連絡するって言ってくれてるし」

 「いいの?やったー!じゃ宿題と着替え持っていくね。一緒にやろっ♪」一気にテンションが上がる。

 「わかった、じゃお昼くらいに家でいいかな?」

 「うん。用意して行くね。うん。じゃぁまた後で…ね」

 通話終了を押して。

 もう一度ベットに転がる。

 嬉しい。

 フェイトちゃんに会える。

 胸に手を当てて、そっと目をつぶってお礼を言う。

 ”お月様ありがとう。”

 今日、私の想い伝えられるかな?

 勇気を振り絞って頑張ってみようかな?

 決意を胸に、勢いよくベットから起き上がって、シャワーを浴びに浴室へ向かう。



〜 side F 〜



 部屋の片づけも終わったし、もうすぐお昼…なのはそろそろ来るかな?

 今朝、思わぬリンディーさんからの提案だった。

 二つ返事で、うれしくてなのはに連絡しちゃったけれど、寝てるところ起こしてしまったみたいで悪かったかな?

 でも、なのはの寝起きの声かわいかったなぁ〜なんて部屋の掃除をしながら、思い出してにやけてしまう。

 お昼少し前に、”ピンポーン”、家のチャイムが鳴る。

 インターホンを取るとなのはが画面に映し出される。

 「フェイトちゃん?ついたよ」

 「はーい。今開けるね」

 オートロックを解除する。

 6階までエレベーターで上がってくるなのはが待ちきれなくて、サンダルで玄関を開けエレベーターの到着を待つ。

 エレベーターからなのはが出て来たから笑顔で迎える。一緒にお隣さんもいたから急にはしゃいでいる自分が恥ずかしくなった。

 「あっ、こんにちわ」

 お隣さんに挨拶して、なのはに、

 「いらっしゃい。暑かったでしょ?」

 と控えめな声でいう。

 「今日は特に暑いね。あっ、ありがとう、お邪魔しまーす」

 私が開いて待っているドアになのはが少し申し訳なさそうに入ってくる。

 横を通るときに、なのはの香りがして胸が高鳴る。

 「はい、これうちのお母さんから、ケーキだよ。保冷材入ってるけれど、そんなに持たないから冷蔵庫入れたほうがいいかも。」

 「うん、頂きます。ケーキうれしいな♪高町家のケーキはおいしいもんね。3時になったら一緒に食べよう」

 なのはをクーラーの効いたリビングに通して、私は冷蔵庫にケーキをしまい、冷えた麦茶を取る。

 「…あれ?リンディさんは?」

 「リンディーさんは夕方まで仕事だよ。ランチ食べたら、宿題しよ。今、ちょうどわからないところがあったんだ。」

 それから、二人でリンディーさんが朝作っていてくれたサンドイッチを食べてから、私の部屋に移動して宿題に取り掛かる。

 「ここなんだけど…代入してもうまくいかないんだよね」

 「ん?どれどれ。あーこれ!私も悩んだ。でもね、こっちに代入するとうまくいったよ」

 「…っ…」

 「むぅ…フェイトちゃん聞いてる?」

 最初は正方形の机に向かい合う形で座っていたけれど、お互い教え合うから、自然と机の角を挟んで座るようになって、教科書を覗き込むときになのはからいい匂いがして、全く勉強に集中できない。

 ち…近い…顔には熱が集中してくるのに。

 不意に目線を上げると、至近距離でなのはと目が合う。

 「…っ」

 「ふぇ…っ」

 想像以上に距離が近くて、2人共完全に思考が停止してしまう。

 一瞬にして場の空気が変化する。

 まるで金縛りにでもあったかのように、体が動かない。

 あれっ??息ってどうやってしていたっけ?

 この状況は、何とかしなきゃ。

 自分の手に力を入れてみる…

 少し動いた。

 動いた自分の手がシャーペンを握っているなのはの手に触れる。

 カタンッ

 「んっ…」

 なのはの手からシャーペンが倒れる。

 まるで、それが合図のように私を捉えてる蒼い瞳が揺れて、まつ毛が揺れながら少しずつ伏せられていく。

 なのはは困っているのかもしれない…でももう止められない。

 自分の目も伏し目がちになって、体が少しづつ前のめりになっていくのを感じながら、吐息が触れ合う距離に来た時に…



 ヴーヴーヴー・ヴーヴーヴー・ヴーヴーヴー

 !?



 「わっ!」

 勉強をしている机に置いてあった、自分の通話媒体が、震えだす。

 固い机の上で、震えるその音は意外と激しくて。

 私たちは、まるで金縛りが一気に解けたようにすごい勢いで、お互い飛び上がる。

 酸欠?目が回りそうだ。

 状況が把握できない…と、とにかく電話に出なきゃ…

 媒体を手で探り出し通話を押す。

 「もしもし?」

 自分の声では無いような乾いた声で電話に出る。

 耳に当てたそれからは、

 「もしもし、フェイトさん?」

 リンディーさんの声。

 部屋が静かだから、なのはまで聞こえてるはず。

 「リ、リンディーさんさん。ど、どうしたの?」

 動揺しまくる…今、何が起きたのか?思考が追いつかない。

 状況の判断のみで会話する。

 「ごめんなさい。今日急な仕事が入って徹夜になってしまいそうなの。フェイトさん一人じゃ心配だし、なのはさんはそのままお泊りしてもらうように桃子さんには連絡しておくから、大丈夫かしら?」

 なんて、私たちとは違う理由でリンディーさんも少し慌てているみたい。

 「うん。そ、そうなんだ。じゃぁ今日はなのはと2人なんだね…えっ?!えっっっ!!」

 「どうしたの?フェイトさん少し変よ?夕飯は冷蔵庫に作ってあるから、温めて食べてね。それと、お客さん用の布団はフェイトさんの隣の部屋に用意してあるから、あとでフェイトさんの部屋に運んでね。じゃぁ、悪いけれどお留守番お願いね。あっ、火の元だけは気を付けてね。」



 ”ブツッ ”

 ツゥーツゥーツゥー



 「あっ!ちょっ!!リンディ…さ…ん??…切れてる…」

 あわただしい会話が終了したことを意味する音を聞きながら、私はあきらめたように通話終了を押す。

 あわただしい電話のせいもあるけれど、自分の心臓がバクバクいってる。

 さっきの出来事の処理が追いついていない。

 「リンディさん帰れなくなっちゃったの?」

 なのはが心配そうに聞いてくる。

 「うん。そうみたい。」

 「私泊まっていってもいいって?」

 「うん。リンディーさんから桃子さんには連絡しておくって。」

 「…フェイトちゃんは私が泊まっても平気?」

 小さな声でなのはが心配そうに聞いてくる。

 「うん。…なのはが嫌でなければ…」

 そう答えながら、さっき自分はなのはに何をしようとしたのだろう?

 あのままリンディーさんから電話が無かったらどうなっていたのか…自分の行為にため息が出る。

 このままなのはが家に泊まったら、もっと嫌な思いをさせてしまうのではないだろうか?

 さっき自分がなのはにしようとした事は、友達以上の行為。

 それ以上に、また同じシュチュエーションになったら、自分を抑え切れる自信がない。

 なのはは嫌じゃないのかな?なのはの様子を窺うように視線を上げる。

 「嫌じゃないよ。私はフェイトちゃんと一緒に居たい…けどフェイトちゃんの方が嫌じゃない?」

 そう、伏し目がちに言う瞳を上げながらなのはが言う。

 一瞬自分の思考が読まれたのかと思ってドキッとした。

 なのはと目が合う。

 「嫌じゃないよ。私はなのはと一緒に居たい…」

 素直に伝える。

 「・・・」

 下を向いたまま何も言わないなのはに、なんだか恥ずかしくなってしまい、そっと席を立つ。

 「えっと、お茶とケーキ持ってくるね。食べ終わったらもう少し宿題しよ。」

 なるべく自然に笑顔を作って部屋を出る。

 紅茶を入れるため、ケトルをコンロにかける。

 そのまま、キッチンにしゃがみ込む。

 どうしよう。

 なのははさっきの行為を責めるつもりも、問いただすつもりもなさそうだった。

 まるで、何もなかったのように…

 でもあのままだったら、明らかに私は…なのはに…キスしてた…そっと自分の指を唇に当ててみる。

 「っ…」

 頭を左右に振り邪な思考を排除しようとするけれど、あの時のなのはの潤んだ瞳、唇が目に焼き付いてしまって…

 なのはにそんな気がないのは知っているけれど…どうしても自分では消すことができない。

 そんな思考を消してくれたのは、時間終了のケトルからの”ピィーーー”というお知らせサイン…

 ”ふぅ〜”大きく深呼吸をしてトレイを持って自分の部屋に戻る。

 「フェイトちゃん遅いよ〜」

 なんて、まるで気にしていない様子だったから、私はほっと胸をなでおろす。

 紅茶とおいしいケーキを食べて、宿題を再開する。

 私は、あまり聞くところもなさそうな古文を選ぶ。

 角を挟んで座っている体制は変わってないけれど、教え合うことが無くなった分、さっきよりはお互いに距離があってこれなら大丈夫と自分に言い聞かせる。

 突然、なのはが何かを思い出したらしく、小さく吹き出した。

 「何?」

 驚いて私がなのはの様子を窺うと、なのはは教科書を見ながら真面目な顔をしている。

 何か?面白いことでも書いてあったのだろうか。

 なのはが何も答えないので、私は取り組んでいた問題の続きをしようと下を向くと。

 また、なのはが小さく吹き出した。視線を上げると、ニコニコというよりか、にんまりとした顔をしたなのはが、

 「ねぇ、フェイトちゃん。フェイトちゃんと最初話すきっかけになったのって、古文の教科書だったよね?」

 なんて聞いてくる。

 「えっ?うん。そうだね」

 少し戸惑いながら答える。

 いきなりの話だったけれど、それは忘れもしない。

 「あの後、はやてちゃんから聞いたんだけど…」

 なのはがそこまで言うと、途端に嫌な予感がしてきた。

 まさか…

 「あの日、フェイトちゃん古文の教科書…持って…」

 「わーーー」

 言いかけているなのはの言葉を自分の声でさえぎる。

 「フェイトちゃん顔真っ赤だよ?」

 なのはを見ると、楽しそうにシャーペンを握った手を頬杖代わりにしながら、いたずらが成功した子供ような顔をしている。

 「…」

 「ねぇ、なんで?」

 「…」

 そんな質問、答えられるはずがない。なのはに会いたくて教科書を忘れたふりをしていた。

 なんて。

 「ねーねーなんで?」

 なのはは足をバタつかせながら、嬉しそうに聞いてくる。

 「わ…」

 「わ?」

 「忘れたと…思っていたから…」

 吐き出すように言う。

 く、苦しい言い訳。というか、嘘ということが罪悪感を刺激して言い淀み、ドツボにはまってる。

 「ふーん。化学の授業には持っていこうとしたのに??」

 なのはは追い打ちをかけてくる。

 ニヤニヤと完全に楽しんでいる。

 「?!…」

 <はやてぇぇ〜>心の中で親友に殺意を覚え次回あった時に仕返しをすることを誓う。

 撃沈した私になのはは満足したようで、上機嫌で宿題に取り掛かる。






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