maruの徒然雑記帳
流れ星2
古文の授業が終わってから移動教室が続き、なんだかバタバタしてしまい、なのはに教科書を返せないまま放課後委員会に突入してしまった。
委員会が終わると同時に、はやてに、
「ごめん先に行くね。教科書返さなきゃ」
と言いながら足早に委員会を後にする。
「あっ、ちょぉ…」
はやてが何か言おうしたのも、もう私の耳には届かなくてその背中を見ながら頬杖を付きながらはやてがつぶやく。
「フェイトちゃん随分なのはちゃんにご執心やね。大丈夫なんかな?」
その独り言のようなつぶやきに返事が返ってくる。
「今日はなのは、放課後残るって言ってたから、また例のアレだと思う。今のタイミングだとフェイトはひょっとすると目撃することになるかもね」
委員会の書類をまとめながらアリサがそう返す。
「そっか。フェイトちゃんの為には目撃しといたほうが、ええんやろうけど、なんかかわいそうやわ」
そんな友人たちの心配も気づかずに、私は軽い足取りでBクラスに行く。
Bクラスには数名しか残っていなくて、なのはは帰ってしまったのかと周りの子に聞くと視聴覚室に行ったことを教えてもらった。
視聴覚室扉の前に立つ。
”教室で待っていた方がよかったかな?”なんて一瞬過る不安。
中から話し声がしたようなので、邪魔をしないようにそっと前扉を開く。
黒いカーテンが引かれた教室。カーテンの隙間から少し日が漏れている。
でも暗くて中が良く見えない。
<あれ?話し声がしたみたいだけど、誰もいないみたい>
もう少し顔を出すと、教室の奥になのはが見えた。
<よかった。まだいた>
目的の人を見つけて、声を掛けようとすると、もう一人の人影に気が付く。
「なのはさん。好きです。付き合ってくれませんか」
<!?>
「ありがとう」
なのははそっとその子を抱き寄せ、首筋にキスをする。
少し顔を上げたなのはは、扉に居る私に視線を移し少し驚いたようだったけれど、その行為をやめようとはしない。
「ぁっ…あの…答えは?」
なのはの腕の中で女の子は震えながら、そう問いかける。
「う〜ん。どうしようかな?とりあえず…や、ら、せ、て」
その子の耳元でなのはがそう言った瞬間、私はその場にいることができなくて走り出していた。
ぐるぐると色んなことが頭をよぎる。
…そういえば、はやてがそんなようなことを言っていた。
ただの噂だと思ってた。
なのはは私がいることを知っていた?
なのにやめなかった?
あの後、二人はどうしたのだろう?
私はなんでこんなにショックを受けているんだろう?
そんな思考がぐるぐると自分の脳内を支配する。
私は何をあんなに浮かれていたのだろう?
初めて、会った日の事。
会う為に、わざわざ教科書を忘れた口実を作って隣のクラスに通って…
教科書を借りて名前を呼んで・・・たったそれだけの事なのに、自分がバカみたいだ。
色んな思いが交差しては流れていく。
なんなんだろう。
胸の辺りがキリキリする。
全速力で走ったから、足を止めた途端汗が噴き出す。
汗と一緒に瞼も腕でぬぐう。
こんな思いになったことがなくて、下唇を噛む。
なんだかとても切なくて、苦しくて辛い。
はぁはぁ・・・呼吸を少し整えて、噴水の前のベンチに腰を掛ける。
左手に持っていた、なのはに返すはずの古文の教科書を持ったままだということに気が付く。
<返せなかった…>
ため息と共に、あかね色に染まる空を見上げる。
全く自分の気持ちに整理がつかない。
「……帰ろうかな」
呟いてみる。
自分の声があまりにも儚くて、笑いそうになってしまう。
整った呼吸に戻ったところで、ベンチを立ち上がり自分の教室へと戻ろうとすると、
そこには心配そうにはやてが立っていて、
「はやて…」
「うん。鞄があったらから、まだおるかと思って…」
そう言いながら私の隣に腰を降ろす。
「ごめん。何が何だかよくわからなくて…」
「そうか。なぁ、フェイトちゃんは高町さんの事、好きやったん?」
「!?」
はやてのその言葉に、体が跳ねる…
そうか。
私は…なのはが…
なのはのことが…好きなんだ。
何も答えない私にはやてが、
「かえろうか、フェイトちゃん」
と立ち上がる。
「うん」
私は、そう言って一度教室に戻り荷物をまとめてはやてと歩き出す。
はやてはそれ以上は何も聞かなかった。
その優しさと距離がすごく心地よくて、いい友達をもった事を心から感謝した。
次の日、HRが始まる前に私は古文の教科書を持ってBクラスへ向かう。
昨日あの後、色々考えた。
まだ、整理はつかないけれど、私がなのはを好きなことはわかった。
人を好きになったことはないし、もう終わっちゃっているかもしれないけれど、このままは嫌だ。
どうしたらいいかはわからないけれど、とりあえず話してみたい。
教室に行くとアリサがいたのでおはようのあいさつをして、そのままなのはのもとへ向かう。
なのはの机の前に立つと、ハッとしたように顔を上げ私を見る。
その顔は不安そうで一度合った眼を逸らされる。
まるで、昨日とは別人。
私は、古文の教科書を差出し、
「ありがとう。助かったよ。…昨日返せなくてごめんね」
なのはは少し蒼の瞳を右下に伏せながら、
「ううん、いいよ」
と言った。目を合わせてくれないことが少し悲しくて…教科書を机に置きながら、
「それで…、よかったらでいいんだけれど…本当によかったらでいいんだけど、私と友達になってほしいんだ」
私は真っ直ぐになのはを見つめそう告げる。
なのはは一瞬震え、不思議そうな顔でゆっくりと瞳を上げる。
やっと、目が合う。
”やっぱり、綺麗な瞳だな”
なのははひどく驚いた顔をしている。
「えっ…いいの?私…」
なのはの手を取り、
「友達になってほしい」
もう一度、笑顔で言う。
なのははやはり少し困り顔で、でも蒼の瞳を真っ直ぐに私に向けて、
「私でよければ、喜んで」
と言って少し笑った。
私たちのやり取りを見ていたアリサは、
「距離を置くどころか、縮めちゃってるし…」
と私たちは聞こえないように、ため息を吐いた。
それからは、はやて、アリサ、なのはと4人で一緒に居ることや、帰る事が多くなった。
なのはは相変わらず、放課後は違う人と居ることもあって、最初のうちははやてやアリサは難しい顔をしながら色々言っていたけれど、それも仲良くなるにつれ、だんだん言わなくなっていた。
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